モンマルトルの丘最終章前編

1800年、初夏。居酒屋ラフォーレ開店の4時間ほど前、店の孫娘、エレナは店の自慢の夏野菜の煮込みの下ごしらえを終えた。

じゃあ、お母さん、行ってくるね。今日は丘の上でスケッチをしてくるから。

ご苦労様。開店までには帰ってきておくれよ。最近、うちの

ワイン目当てに、夕方からのお客さんが増えているからね。

母親にひらひらと手を振り、エレナはカンバスと画材をもって、店の勝手口から出て行った。

エレナの祖父が店のマスターを引退し、おじいちゃん子のエレナは店の手伝いをしながら、なにくれとなくお店の様子を祖父に

話してあげるのを日課にしていた。

エレナは小さな時からとても賢い子で両親は彼女を上の学校に進学させて人に教育をする仕事につかせたかった。でも、

エレナはこの店を、両親を、祖父を愛していた。

さらにまた、彼女は祖父に似て、絵を描くことがとても上手だった。

そんな孫娘を祖父はとっても可愛がった。自分に似たウエーのかかった亜麻色の髪の孫娘が、お絵描きが好きだという事を知ると、彼は孫娘を自分の大事な物を入れてある箪笥がある部屋に連れて行った。好奇心で目をまん丸くしているエレナに、彼は自分のお宝何枚ものスケッチ画を見せてくれた。

優しいまなざしの黒髪の少年、少し寂しそうな男の人、でも、その中で目を引いたのは黒い髪の男の人が、輝く金髪の美しい女性と仲良く寄り添う姿だった。

エレナは息をのんだその絵の美しさと切なさが小さな少女に

何かを訴えているかのようだ。

奇跡だったんだよ。祖父かつてのマスターは優しく

孫娘に語り始めた。

その男はアンドレって言ってな。ほんの少年の頃からこの店に

ふらりと来るようになった。なかなかハンサムな男だが、いつも一人で来ては一人で帰っていく。ある日、思いつめた顔で店に来た。田舎へ帰ると言う。その暗さがどうしても気になって俺は引き留めた。それからしばらくしてだな、アンドレがその金髪の女の人を連れてきたのは。それまでは見せなかった、幸せそうな顔をしていたよ。俺も、すごく幸せな気持ちになった。どうしてもあの二人が寄り添う姿を描いてみたくなったんだ。何故かっていうとな。

そこで彼は少し寂しそうな顔をした。

その二人は身分違いだったんだよ。愛し合っているのに、その頃の社会では結ばれることが許されない二人だったんだ。だからこそ、絵の中で寄り添わせたかった。

それで?それで、二人はおじいちゃんの絵、みたんでしょう?

うれしかったでしょうね。

二人が見ることはなかった。この店に来てから2週間後、

二人は戦死したんだ。

エレナの目から涙がポロポロとあふれでてくる。どうして二人が

死ななくてはいけなかったの?なんで、身分が違うからって

愛し合うことが許されなかったの?わかんないよ!

少女だったエレナはまるで悲しい結末の絵本を読んだ後のような気持ちになった。

でも、それは彼女の将来にあるきっかけをもたらすことになる。

最終章後編に続きます。

ごめんなさい。疲れ目でここでギブアップです。次で終らせます。も一回、付き合って下さいね。