如果9

口付けはすぐに深くなり、舌は、口腔内で深と絡み合った。

息があがる。

自分から口付けたことなど忘れてしまい、ただ口を開いたまま陸風を受け入れていた。

昔と変わらない。

唇から、そして次に鼻先、額へと点と移っていく。飲み込むように、力を込めて。

髪生え際で、一度止まる。

そして、もう一度跡を辿る。

そのまま顎へ、そして首へ、うなじへ

背中を支える陸風の手が動く。

彼の半身の熱を感じ、その硬さの所以を思い、肌が泡立った。自身の下腹もまたじわりと熱を帯びて来る。

吸い取るような口付けの、そこここが焼け付くようだった。

覆いかぶさってくる重みを支えきれなくなり、ベッドに倒れこむ頃には、喉がつまるような感覚がしていた。接吻も、愛撫も、流れるようではあったが、いかんせんどうしようもなく緊張していたのだ。

久しく無かった抱擁。

彼の手が、セーターの中に滑り込んだ時、思わず身を硬くした。胸の辺りを陸風の親指が動く。その痺れるような感覚に、息が弾み、肩を握りしめるばかりだった。

身体の上を走る陸風の手で、全身火がつかんばかりに熱くなってきた時、彼が離れた。

身を起こし、服を脱ぎ始めるのを、ぐったりと横たわったまま見詰めていた。

陸風の裸の身体。

その美しい均整のとれた上半身の輪郭を見て、不覚にも胸が震えた。

頭が真っ白になり、暫くは眼も移さず、ただ凝視した。

四十を少し過ぎた男のなんと若しいことだろう。過ぎたと言っても、せいぜい十年程の年月しか感じない。

顔の輪郭も変わらず美しい。伸びやかな四肢、広い肩、細い腰、全くといってない贅肉。

前に屈み込んだ時の弾力ある腹部。

熱は一気に冷めていった。

苦笑したくなる。

まったく、なんて違いだろう。

彼と比べて、痩せさらばえた自分の肉体ときたら

年齢なりかもしれないが、一年間の入院で一層痩せてしまった。四歳差は変わることはない。が今の自分ときたら彼より老いている。干からびた老人ではないか。

いい加減にしてくれないかな?この表現猫

同じように酷ければ良かったのに。

陸風は、なんと若しいことか。

肋骨の浮き出た胸や、落ち窪んだ腹を見られたくはない。

セーターを引き抜かれ、シャツのボタンを外されて、初めて抗った。襟元を固く握り、脱がせまいとする。

どうしたんだ?

なんと応えてよいやら。

沈黙した。はだけられた身体を隠し、見せまいとする。

やはり、嫌なのか?

失望の声を聞くのは辛い。

待って欲しいんだ。上手く言えない。もう少し、後で

鍛錬すればまだ少しましになるだろう、わからないが、少なくとも今よりましになれば良い。

何故なんだ?彼は僕の腕を掴んだまま、離そうとはしない。

一緒にいてれるはずでは?急に嫌になったのか?

違う!陸風の真摯な、しかし幾らか哀しみを含んだ顔を見る。

抱きしめたかった。

じゃ怖いのか?推し量るように続ける痛い思いはさせない、約束する

違うんだ、そうじゃないんだ。曖昧な言い訳をした。

ちょっと気分が悪くなったんだ、急に、今度次には

どこが具合悪いんだ、酷いのか?

二の句も付けない。陸風は暫く見詰めていたが、沈黙し、遂には手を離した。

風呂に入ってくるよ。

暫くして、低い声が落ちた。

立ち上がり、脱ぎかけたズボンを直し、ベルトを締め直した。

そんな落胆を見るのは辛い。

自分の少の自尊心がなんだろう?痩せた肉体を見られて、嫌がられたくないからと言って、彼を哀しませるのは忍びない。

陸風

うん?

腰を抱きしめた。自分の顔をすり寄せ呟く。

口で口でもいい?

陸風は殆ど愕然としたかのようだ。頭を撫でながらまったく!一番嫌だっただろう?そんなこと。

自分から彼のベルトに手をかけた。陸風が良いならいいんだ

彼は怒りを抑えるかのように、指で僕の額を弾く。

馬鹿

半身だけの為だとでも?

ただお前を抱きしめたいんだ。

優しげなその声。

お前が嫌なら、抱きしめるだけでもいいんだ。

頭を彼の腹に預けたまま呟く。

みっともない。

うん?

僕の身体だみっともないんだ。君とは違う知らないだけだよ、陸風

部屋はひとしきり静まりかえった。

突然、眼前がぐらりと揺れ、次には天井が見えた。荒しく押さえ込まれ、押しかかって来る彼の、その引き結ばれた唇は、笑っているとも怒っているとも判然としない。眼はしかし怒っているかのようだった。

声を出す間もなく、服も、ズボンもあっという間に剥ぎ取られた。呆然としている間にも、熱い身体が覆いかぶさって来る。

両脚が大きく開かれ、腰下には枕があてがわれ、持ち上げられた。狼狽し、待ってくれと繰り返すが、その間も、胸と言わず腰と言わず、唇が降りて来る。熱く、紅く。

脚の間も、余すところ無く舐めとっていく。抗いきれない。

陸風の舌先が、前後をくまなく濡らしていく。柔らかく熱いその感触が、何処もかしこも、滑るように、焦らすように蠢く。

身体は前後に揺れ始め、乞うように陸風の髪を掴み、喘ぎ声しか出ない。

自身の下腹部も痛いほど張ったが、脚はピクリとも動かせなかった。

切れ切れの息で言う止めてくれ、もう耐えきれないと思った刹那、唇が離れた。

押さえつけられた脚をやっと伸ばせたと思った瞬間、次は横向にされ、片方の脚は下にもう片方は高と肩に担ぎ上げられた。

靭帯の痛みに声が漏れたが、それよりも痺れで力が入らない。

冷たい指が進入してきても、ただただ息を吸い、身を硬くし、シーツを握りしめるばかりだった。

大丈夫だ、楽にして。

陸風の口調は優しい。しかし、彼の口から出る低く掠れた声には、却って不安を感じた。

既にたっぷりと濡れ、指一本受け入れるのは容易ではあったが、いかんせん緊張で硬くなってしまう。

陸風が僅かに息を吸うのを聞くや、指先が大きく回った。

二本めが挿入され、脚がつりそうになる。中は狭く、それが無理やり拡げられようとする、その感覚。その抗い難さに狼狽した。

ただ彼の指が動くだけで、全身汗が吹き出し、下腹部もそれに応え、息も絶え絶えになる。指がゆっくりと抜かれて、挙がった脚が少し下がるとやっと振り向いて彼の顔を見た。

汗ばんだ髪を前に垂らし、平素は冴え冴えと整った顔貌も、幾らか柔和で、驚く程優しい。両脚の間で一言も発さず、その眼は熱を帯び、彼がどういう状態なのか、同性としてはっきりとわかる。

陸風の熱、陸風の手。

かれの掌の中で、自分もまた震えた。

少しむせ込んで、口を開いて何か喋ろうとする。が、次の瞬間、大きく突き込まれた。話そうとしたその声は叫びに変わる。

眼の前が真っ暗になった。

指どころではない。押し入ってきた、その満とした圧迫感、二つに裂けてしまいそうだった。繰り返す挿入の中、肩まで挙げられた脚が痙攣し始める。

陸風陸風、だめ

幾度とない耐え難い衝撃、声にならない哀願、交じり合う肉体の焼け付く熱さ、反復される挿入に震え、痙攣した。

大丈夫だもうすぐだから

掠れた声の慰めが聞こえる。と同時に再び下腹で陸風の掌が動き、先走りが滲み出した。上下に分け挙げられた両脚は、自身ではびくとも動かせられない。すっかり濡れそぼり、曝け出されていた。

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